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10歳の家内更紗(白鳥玉季)は、家に帰ることができず、いつも一人で公園にいた。一方、大学生の佐伯文(松坂桃李)は周囲になじめず友達もいない孤独な日々を送っていた。ある日、突然の雨に更紗はずぶぬれに。みかねた文が話しかけると、更紗は家に帰りたくないのだと話す。そこで文は更紗を自分の家に来ないかと誘う。それから2カ月間、2人は純粋に楽しい時を過ごすが、世間では更紗は誘拐されたことになっており、2人で出かけたところを見つかってしまう。文は誘拐犯として逮捕され、更紗は被害女児として扱われることに。それから15年の月日が経ち、更紗(広瀬すず)はエリート会社員の中瀬亮(横浜流星)と付き合っていた。また、文もロリコンの誘拐犯というレッテルを貼られ、ツライ日々を生きてきたが、今は谷あゆみ(多部未華子)という恋人もでき穏やかに暮らしていた。そんなある日、更紗は文と偶然再会するが…。

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設定が重いのでいささか躊躇がありましたが、実際に見てとても得るところが多かったので、秀作だと思います。虐待されていた少女を、ただ助けたかったということで、かくまった文は世間からバッシングされて、密かに生きることを余儀なくされます。この作品を単なるロリコンを扱った映画と思う人間は、たくさんいるかもしれません。しかし私はそう思いたくないです。彼を許し、その行為を褒めてあげたいくらいです。だから見る人の境涯によって、この作品の評価は、天地雲泥の差があるのかもしれません。そして運命は彼らを再会させ、さまざまな感情のひだや、苦悩する人生が明らかになるにつれて、見ている側は完全に引き込まれていきます。そしてこの作品の彼方には、人間への絶大な信頼と、深い愛を見ることができたような気がしました。

松坂桃李さんは昔から大好きでした。私生活がとてもシンプルで真面目であるという話も聞いていますので、彼の生き様が作品によく出ているような気がします。しかも183cmの身長から繰り出すオーラのようなものは、静かな存在感と迫力を持っていると思います。戸田恵梨香さんと結婚してから、ますます演技に円熟味が出てきたような気がします。彼の出ているドラマや映画は、戦争ものや純愛ものから政治的なものまで実に幅広い役を演じていますが、彼は顔の表情だけでも、的確にその役を演じ切るというところは、いつもすごいと思っていました。例えば「新聞記者」という映画では、本当の正義とはというテーマで、胸の内にある苦悩を見事に顔の表情で演じきっていました。ドラマでは「パーフェクトワールド」で難しい障害者の役を演じていましたが、その純愛に胸打たれたことを覚えています。彼はきっと日本の俳優陣の中でも、確固たる足跡を残す一人だと信じていますし、いつまでも応援していきたいと思います。

ヒロインの家内更紗と佐伯文の、単純な恋愛とは言い切れない不思議な関係。男女の愛情があると同時に、性別に関係のない友情があり、また互いに依存し合う部分もある、何とも言えない関係性ですね。2人が出会った時、家内更紗は10歳と幼いがために、佐伯文はロリコン扱いされて、誘拐犯ともされてしまう訳ですが、15年後に再会した時にはそうとも言い切れない関係になります。共通しているのは2人を取り巻く世間からの冷たい眼差し。社会の多様性が叫ばれるようになって久しい世の中ですが、真の多様性の実現は、人が、自分と相容れない価値観を受け入れることが困難な生物である以上は、なかなか遠い道のりであることを感じさせてくれますね。

基本的に、出演している役者さんたちの演技がみんな素晴らしい作品でしたね。松坂桃李さんは今回内気な青年役なのですが、全く違和感がないところが凄い。他の作品で、正反対の明るい陽気なキャラクターを演じていたりするので、同じ人物とは信じがたいほど。広瀬すずさんも、幼さを感じさせる場面から、大人っぽく振る舞う場面まで、上手く演じ分けていたと思います。そんな主演の2人に加えて、特筆するべきパフォーマンスを発揮してくれたのが横浜流星さん。ヒロインに容赦のない暴力を振るう役どころで、ある意味悪役なのですが、思い切ったバイオレンスな表情を見せてくれて、ショッキングなほどでした。何かと過激な描写が多いこの映画において、横浜流星さんが支えた部分は小さくないと感じました。

厳しい演出で知られる李監督の作品なのでとても楽しみにしていました。公園で出会った青年と少女はお互いの居場所となり穏やかな生活を送っています。しかしそれは誘拐事件として世間に知られてしまいます。引き裂かれた2人が再び再会を果たしますがその時にはお互い別の人生を歩んでいます。少女だった更紗は婚約者と結婚間近、青年だった文は珈琲店で働いており彼女もいる。そんな2人が出会った瞬間の空気、心理描写が実に繊細に丁寧に描かれています。そしてそれからまた2人はお互いを求めます。しかしそれはただの恋心だけではないのです。衝撃のラストから、本当に大切なものは何なのかとても考えさせられる作品です。究極の愛の物語とも言えるかも知れません。そして細かい演出、流れる音楽、風景、どれをとっても繊細で美しく描かれています。また、キャスト陣の渾身の演技もとても見ものです。今年一番の心打たれる作品でした。

更紗の婚約者を演じた横浜流星さんです。これまでの作品とは真逆の役で、自身のマイナスイメージにもなりかねない演出もありましたが、見事に演じきっておられました。それはもう亮でした。心で繋がろうとする更紗に対し、身体で繋がることで自分を認め居場所をつくろうとする亮。最初は優しい婚約者ですが、更紗の気持ちが離れていくことに気づくと身も心も崩れ始めます。ついには暴力で更紗を繋ぎ止めようとします。一見ひどい男なのですが、亮にはこのやり方しかできない、そんな弱さや儚さがとても滲み出る演技で、どこか憎めない男としてうつりました。最後に更紗の手を自分から離すシーンは亮の絶望、成長、愛情、いろんな感情が感じとれてその演技に脱帽でした。ビジュアルも精神の崩壊と共にだんだんやつれてだらしなくなっていく部分が繊細に演出されており、横浜流星さんの努力や役に向き合う姿が素晴らしいと思いました。

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